結婚してすぐに妊活を始めました。もともと子宮筋腫を持っていたため、定期検診で産婦人科を訪れると、すぐさま担当医師から、「子どもが欲しいなら、今すぐにでも高度医療の治療を始めたほうがいい」とアドバイスされました。
その時、私の中で「不妊治療」ということはすぐに理解できたのですが、主人はあまり実感がわいていないようでした。それもそのはずです。私の年齢は38歳。しかも3ヶ月後には39歳になります。かたや主人はまた35歳です。もともとのんびり屋の主人にしてみれば、「結婚してすぐ子どもが授からなくても、夫婦での時間を楽しく過ごしていれば、いつかはできるでしょう。そんなに焦らなくても・・・」という思いだったのです。
とはいえ、私が主人よりも年上であったため、すぐに高度医療の治療を受けないにしても、不妊治療センターへ通院することは理解してもらえました。不妊治療センターに通って最初は、ホルモン検査や血液検査などで、治療らしい治療はできずに、超音波検査で排卵日を特定するタイミング法で子作りを行っていました。
タイミング法を4回ほどトライしても、妊娠しないため、医師から人工授精へのステップアップを勧められました。私は、子どもが1日でも早く欲しかったため、タイミング法でダメなら次のステップに進むことは、何の躊躇もありませんでしたが、やはり男性である主人には、かなりの抵抗があったようです。
子どもは自然に授かりたい。そういう思いは強くあったのでしょうが、私の気持ちを尊重してくれ、人工授精にステップアップすることになったのです。
しかし、そこで、主人にも問題があると発覚しました。主人の精子の数や運動率が平均値より下回っているため、泌尿器科へ行くことをすすめられました。そこで、精索静脈瘤であることが分かったのです。
私の一通りの不妊検査では、高齢という以外には、特に問題とされるものはありませんでした。しかし主人には、男性不妊の原因がはっきりとわかり、薬を処方することになったのです。男性不妊の場合は、ある程度、薬での改善が可能です。また健康保険が適用する薬を処方されるため、経済的には決して苦ではありませんでした。
子どもができない原因の半分に、自分の男性不妊が関係しているとわかったときから、私への不妊治療の理解が更に高まったような気がします。妊娠しやすい身体にするためのサプリや整体、鍼。冷え性を治すためのホットヨガなど、妊娠に良いと言われることは全てトライしていたため、病院での不妊治療費以外にかかる妊活費には、かなりの金額を必要としました。
幸いなことに、私の主人はとても理解があり、経済的負担にも文句ひとつ言わず協力してくれました。独身時代に貯めていた貯金も、ほぼ全てはたいてくれたのです。
同じ不妊治療の仲間には、その不妊治療費や妊活費を出すことを渋る男性もいると知っていたため、本当にありがたい思いで、日々送っていました。
とはいえ、やはり妊活中に主人との温度差を全く感じなかったというわけではありません。
体外受精にステップアップして、排卵誘発剤を使用しても、なかなか思うように卵子が取れないときや、せっかく移植しても着床しなかったときなど、私が泣いている横で、慰めてくれるのですが、私は心の中で、どこか「孤独」を感じていました。
基本、女性は感情的な生き物です。そのため、妊娠していないことが分かると、やはり辛いのです。時には泣いてしまうこともあります。しかし、男性はほとんどの場合泣きません。落ち込んでいる私の肩を、そっと抱いてもくれますし、彼なりに気の利いた言葉をかけてくれるのですが、申し訳ないことに、なかなか心に響きませんでした。
彼がどうこうというより、妊娠できない自分を責め、この先も妊娠できずに子どもを持たない人生を送ることになるのではないか?という恐怖を感じてしまうのです。
痛い思いをして、採卵しても卵子の数が思ったほど取れなかった。受精しなかった、移植しても着床している気がしない。判定日の当日、「ほらね、やっぱりね」という気持になる。
あまり落ち込んでいない主人を見ると、「結局、痛い思いしていないから、他人事なんだ」と、寂しい気持ちになるときもありましたが、それを私が口にしてしまうと、何かが壊れてしまいそうで、それだけは絶対に言えませんでした。
今、思えば、主人は辛かったんだろうなと思います。妊娠は女性がするものですから、男性はあまり実感がわかないでしょう。だからこそ妻が妊娠していないとわかると、その辛そうな姿を見て、どうしたらいいのかわからなくなってしまうのだと思います。
どんな言葉をかけたらいいのか、どんな風に慰めたら妻は救われるのだろうか、どう考えてもわからないのです。落ち込んでいる私も、一体何を主人に求めているのか、分かりませんでした。
また主人は、あまり気の利いた言葉をかけられるような器用な人ではないので、あまり期待はしていませんでしたが、それでも彼なりに気を使って、美味しいものを食べに連れて行ってくれたり、「大丈夫」と根拠のない励ましを送り続けてくれました。
1年半の不妊治療で5回の体外受精を行いましたが、採卵後の受精結果や着床判定などの、とても緊張するときは、ほとんどついてきてくれました。緊張でどうにかなってしまいそうな私を、主人は落ち着かせてくれたのです。
私と一緒に結果を聞きに行くのは、私を落ち着かせるためと、自分のためでもありました。自分の精子と私の卵子がどうやって受精して、受精したものは、どのように成長していくのか、どういう受精卵が着床しやすいと言われているのか。または、着床しなかったとき、その原因はなぜかなど、私では思いつかないようなことを、担当医師や培養士の方に質問をしている姿を見ると、彼なりに勉強をしているんだと実感しました。
妊娠は男性はできない。でも勉強することはできる。そして、得た知識を私と一緒にシェアをして、不妊治療を進めていくことができる。主人は受け身ではなく、積極的に不妊治療に参加していたのです。ですから、妊娠しやすいと言われることは、全てやろうと思えましたし、妊娠できない原因と思われることは全て改善していこうと思いました。
その甲斐あって、5回目の体外受精でようやく妊娠することが出来たのです。受精卵を移植した後、自分の身体の中で、いつもとは何かが違うことがはっきりわかりました。妊娠すると脚の付け根が痛いと言いますが、それがありました。しかし、陰性だった時も、そんな痛みがあるように感じたので、あまり大きな期待はしないでおこうと思えば思うほど、やはり気になります。その身体の変化について、主人に伝えようと思いましたが、今まででに、どれだけ期待をさせてしまい、がっかりさせてしまったか。それを思うと、伝えられませんでした。
たまたま、着床判定日が土曜日であったため、一緒に行くことが出来ました。先生から「おめでとうございます」と言われ、ホルモン値の用紙をもらい、病室を出た後、トイレで2人で抱き合いました。主人は常に落ち着いている人ですから、そこで大きく感情を出すことはあまりありませんでしたが、自宅に戻ってからは、そのホルモン値の用紙をカメラで納めている姿を見た時は、やはり嬉しいんだと実感しました。
不妊の治療内容はほとんどの場合、女性に負担がかかります。妊娠できていなかったとき、落ち込む妻に男性は何も声をかけられないかもしれませんが、それでいいのです。傍にいてくれるだけで妻は落ち着くのです。むしろ、色々と気を使ってべらべら話してしまうほうが、逆効果なのです。
不妊治療中、何度か温度差は感じたことはありましたが、温度差があったことで、夫婦の絆はより深くなったような気がします。