現在不妊治療をしている人や、なかなか子どもを授かることができず、不妊治療を始めようと考えている人に質問です。
体外受精での妊娠に抵抗がありますか?
ほとんどの人が、治療など行わず、自然妊娠できればと望むはずです。しかしながら、なんらかの事情で自然妊娠が難しく、不妊治療をしなければ、妊娠することが難しい人が大勢います。
不妊治療を始めてから、最初はタイミング法を行いますが、5~6回ほど行っても妊娠に至らない場合は、人工授精にステップアップします。このタイミング法は健康保険適用内ですし、人工授精は健康保険適用外ではありますが、目が飛び出るような高額の治療ではありません。金額や身体に負担があまりかからないため、受けやすい不妊治療とも言えます。
しかし人工授精でも、妊娠できない場合はいよいよ体外受精や顕微授精にステップアップするのですが、この体外受精や顕微授精の治療費は、健康保険適用外のため自費診療になります。治療費は、病院によって大きく異なりますが、約35万円から60万円になります。
そして、身体への負担も出てきます。金銭的なこと、身体への負担、メンタル、そこまでして体外受精に進むべきか。なんとか自然で妊娠できないものか。色々考えてしまいます。
私は、不妊治療を始めて、最初はタイミングを試みましたが、3回ほど行って、すぐに人工授精にステップアップしました。
そして、そこで主人にも男性不妊の原因が見つかり、ここのまま人工授精をしても、妊娠できる可能性は低いから、体外受精にステップアップしたほうがいいという、担当医師からアドバイスがあったのです。不妊治療を始めてから、半年後の事です。
私自身、体外受精や顕微授精の知識はほとんどありませんでしたが、ステップアップすることに何の躊躇もありませんでした。お金の心配はなかったと言えばウソになりますが、私もパートとは言え働いていましたし、主人の貯金もあったので、そこはあまり深くは考えませんでした。
妊娠できるためなら、どんなことでもしようという決心でしたから、普通に体外受精にステップアップしたのです。
まず、あらためて、体外受精はどんなものなのかご説明しましょう。卵胞から卵子を取り出し、その卵子と精子を掛け合わせて培養します。卵子と精子を掛け合わせてできた受精卵を分割杯や桑実胚、胚盤胞にまで育て、子宮の中に戻すという方法です。
卵子に精子を振りかけて受精を手伝ってあげるのが体外受精に対して、顕微鏡を使い、1つの卵子に1つの精子を注入するのが顕微時受精です。顕微授精は、精子の数が少なかったり、運動率が悪い場合に行う方法です。
私は第一子を妊娠するまでに5回の体外受精を行いましたが、その時の主人の精子の状態によって、体外受精になったり顕微授精になったりでした。顕微授精のほうが、少し体外受精より金額が高額になりますが、体外受精になるか顕微授精になるか、そこは患者が決めるのではなく、担当医師や培養士が決めます。ほとんどの病院が同じ方針だと思います。
体外受精を行う不妊治療患者は年々増えており、最近では年間40万件以上も実施されており、その中から5万人以上の赤ちゃんが生まれています。
体外受精で生まれた赤ちゃんは1983年東北大で始めて誕生してから、なんと48万人以上の赤ちゃんが生まれているのです。およそ20人1人の割合で体外受精で生まれた赤ちゃんがいるのです。20人に1人とは、学校のクラス内に1人から2人という計算になります。
では、体外受精での妊娠と自然での妊娠とでは、なにかが違うのでしょうか?
結論から言うと、何も変わりません。
体外受精や顕微授精では、先天異常や奇形などの割合は自然妊娠と変わらないというデータの結果があります。そのため、赤ちゃんへの影響があるのではないかと心配している人がいるかもしれませんが、安心してください。
自然妊娠にどうしてもこだわりたい人に、無理にこの体外受精をすることはすすめません。当然担当医師も同じ気持ちだと思います。不妊治療をしている人は、一日でも早く卒業したいと願っているはずですし、そして医者はそのお手伝いをするにすぎないのです。不妊治療は病気ではないため、必ずしも治療をしなければいけないということはありません。子どもが欲しいのであれば、少しでも妊娠できる可能性が高い治療を提供する。それが不妊治療センターの役目なのです。
体外受精は、少しでも多くの卵子を採卵できるよう、排卵誘発剤を使用します。排卵誘発剤の種類は多くあり、使用するものは不妊治療患者によって変わります。内服薬の人もいれば、注射の人もいます。いずれにしても、卵巣を強く刺激するため、副作用が絶対にないとは言い切れません。
採卵後も、受精卵が子宮に着床しやすくするためのホルモン剤を使用することもあります。
妊娠に至った場合、使用した薬が赤ちゃんに影響があるのではないかと心配する人もいるようですが、その心配は全くありません。
受精卵が複数あった場合、状態の良いものから子宮に戻しますが、その分発育の良い子どもができるのでは?または状態があまり良くないものは、発育が悪く障害がある子どもが生まれるのでは?と不安になる人もいますが、着床した受精卵の成長に、特に影響はありません。
影響があるとすれば、染色体の異常です。しかし、この染色体の異常は、体外受精だからではなく自然妊娠でも普通にあり得ることなのです。もし体外受精で生まれてきた赤ちゃんに何か障害がある可能性が高いというのであれば、ここまで体外受精は普及していないと思います。自然妊娠が不可能な女性にとって、体外受精や顕微授精は、最後にできる手段なのです。安心してステップアップに臨んで欲しいと思います。
実際、私は40歳の時に体外受精で妊娠し、41歳で娘を出産しました。妊娠中も、出産も全く問題はありませんでしたし、生まれてきた娘も元気にすくすくと育っています。
ですから、私の体験上で言わせてもらえば、体外受精での妊娠と自然での妊娠は何の違いもないのです。
とはいえ、自分の娘に、あなたは体外受精で生まれてきた子どもなのよ。というつもりは毛頭ありません。隠すわけではありませんが、あえて言うことではないと思うからです。
もし娘が成人して、私と同じような悩みを持った時には、どんな思いで不妊治療に臨んだのかを伝えていくつもりでいますが、それ以外は特別に何かを話そうとは思っていません。
不妊治療の仲間の1人が、体外受精で妊娠をしました。彼女は、自然妊娠のママ友がとてもうらやましかったそうです。また体外受精で妊娠したというと、同情されてしまったそうです。
確かに、妊娠は自然でできることです。しかしながら、人によっては、どうしても自然妊娠が不可能で、体外受精に頼るほか、妊娠する術がない人だって世の中には大勢いるのです。
私は言いました。「自然で妊娠した人には、不妊治療の辛さなんて絶対に理解することはできない。むしろ理解してもらうと思うほうが無理なのだ。」と彼女は、体外受精で妊娠したことを少し後ろめたく思い、また体外受精で妊娠したことが偉いと勘違いしているようでした。
頑張って体外受精を行ったことは認めます。しかし、偉いわけではないのです。また同じように、自然での妊娠が体外受精での妊娠より勝っているということもないのです。
体外受精であろうと、自然であろうと、「妊娠」は「妊娠」なのです。