きっかけは子宮頚部上皮内がん
私が不妊専門のクリニックに通い始めたのは、子宮頚部上皮内がんになったことがきっかけでした。
そろそろ子作りをしようと思った矢先、子宮頚部の異形成が見つかり、それまで子宮筋腫を診てもらっていた婦人科で手術を受けました。
手術自体は割と簡単なもので、術後の病理診断でも問題なく、妊娠出産が可能ということでした。
安心したのと同時に私が感じたのは、ある日突然妊娠できない体になるかもしれないんだという恐怖です。
37歳と年齢はいっていたものの、妊活にかける時間はあると思っていました。それすら叶わないこともあるんだと思い知らされた私は、婦人科の医師とも相談し、妊活に専念する、早く授かれるように今やれることは全てやっていくという想いから、クリニックの紹介状を書いてもらったのです。
本来クリニックへは、なかなか妊娠しないので行くという人が多いと思います。ですが、私は37歳という年齢や、がんの再発もあり得る状況から考えて、自分で妊活してダメだったから行くでは遅すぎると思ったんです。
それまでちゃんと子作りをしていなかったので、自分が不妊症かどうかも分かりません。まずは妊娠できる体かどうか検査してもらうことが目的でした。
もし何か問題がみつかれば、治療にも早く取り掛かることもできます。幸い子宮筋腫で数年前から婦人科に定期検診に通っていた私は、婦人科での診察自体には全く抵抗がありませんでした。
さらに言えば、自然妊娠にこだわる年齢でもないと、少し先を見越した覚悟もあったと思います。しかし、それでも実際の検査や治療に、平然と対応できた訳ではありませんでした。戸惑いと不安で弱気になることも多かったのです。
痛すぎる子宮卵管造影検査
早速クリニックを訪れた私は、担当の医師から今後行う検査について説明を受けました。
まずは、血液検査、抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査、精液検査と、ここまでは想定内です。あらかじめ妊活の雑誌を読んでいたこともあり、ホルモンの値を調べるために採血することや、卵巣年齢を調べる検査があること、夫にも精液を採取してもらう必要があることなどは知っていました。
想定外だったのは、その時まで知らなかったフーナーテストと、子宮卵管造影検査をすぐに行うことです。フーナーテストに関しては特に抵抗を感じることはありませんでしたが、一番戸惑ったのが卵管造影で、あの痛いと噂の検査をいきなりかと思いました。
妊活を始めた以上、避けては通れない検査とは知っていたのですが、妊娠しなかった場合にするものと思い込んでいたので、怖がりな私にはショックが大きかったです。しかし、クリニックに行ってみてあらためて不妊に悩んでいる人の多さを知り、つらい治療を長期間続けている患者さんの気持ちを想像すると、卵管造影の段階で怖気づくような半端な気持ちではここに通う資格はないと思いました。
これくらいで二の足を踏んでいて、赤ちゃんが来てくれるはずがないと気持ちを奮い立たせることができたのは、周りの患者さんたちから勇気をもらえたからだと思います。それでも約二週間後の当日までは、かなり憂鬱な気分で過ごしましたが…。
いよいよ本番になり、造影剤を流し込まれて数秒後、これまで経験したことのない痛みが襲いました。途中でレントゲンを撮るため、息を止めてという指示があったと思いますが、その時の私には何を言われたのか理解する余裕さえありませんでした。まさかここまでの痛みとは…。というのも、子宮頸がんの時にコルポスコープ診というものすごく痛い検査をしていたので、それに比べれば大丈夫かもしれないという気持ちもあったからです。
しかし、組織を切り取るコルポスコープ診とは全く別物で、これ以上は体が壊れる一歩手前の圧力をかけられているような痛みでした。終わった後は、ぐったりノックアウト状態。ですが、達成感も半端ではありません。何といっても、この後の半年間はゴールデン期間。卵管の通りがよくなって、妊娠しやすくなるのです。結果もすぐにわかり、卵管は両サイドとも通っていました。私は、この検査を乗り越えた自分をほめたい気持ちになり、絶対この半年のうちに妊娠するぞと気合いが入るのを感じたのでした。
検査結果に一喜一憂
クリニックに通い始めてから思ったのは、妊娠に至るまでに乗り越える壁が多すぎるということです。検査結果一つ聞くのもドキドキで、良い結果だった時は心底ほっとするし、悪い結果がでれば絶望的な気分になる、まさに一喜一憂の日々でした。
まず、採血によるホルモン値検査。月経期や黄体期など時期ごとに何回も検査が必要で、そのたび数値が悪くないかヒヤヒヤしました。抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査では、卵巣年齢は実年齢よりは少し若いとの結果が出て嬉しかったです。
夫の精液もなかなか良い数値が出て、内心びくびくしていた夫も得意げでした。
最初に引っかかったのは、フーナーテストです。夫の精子には問題がないのに、私の子宮頚管に入った精子は、みんな動きが止まっていました。私の体に精子を殺す抗体があるかもしれないということで、抗精子抗体の検査が追加に。もしこの抗体があると、自然妊娠はできないので、体外受精になります。
採血による検査の結果は幸い陰性でしたが、結果が出るまで不安でたまらなかったことを覚えています。次に指摘されたのは、クラミジア抗体の結果が陽性ということでした。頸がんの手術の時に、子宮頚部の検体を採取して検査した際は、感染していなかったのですが、血液検査では過去に感染歴があるだけでも陽性が出るのだそうです。
心当たりがなかったので、自覚症状がないまま治っていたと考えられます。しかし、クラミジアは卵管閉塞の原因になることや、妊娠しても流産のリスクが高くなることもあって、念のため夫と二人で抗生物質を服用して治療することになりました。二週間かけて服用するため、その周期での子作りは見送ることになります。
何を焦っていたのか、この時もひどく落ち込んでしまいました。最後に子宮筋腫ですが、私の場合は大きさは7cmとかなり大きめなのですが、場所が子宮の上の方にあるため、妊娠出産の障害にはならないだろうとのことでした。これは以前の婦人科でも言われていたことだったので、同じ見解だったことにほっとしました。しかし、もし妊娠に至らなかったら、筋腫が原因になっていることも考えられるので、その時は手術で摘出しようとのこと。完全に心配が消えたわけではありませんでした。
このようにいろんな検査項目があり、どれか一つでも引っかかると、もう不妊症の確率が高いということになってしまいます。子宮はもちろん、内膜、卵巣、卵管などとすべての機能がほぼ正常でなければいけないのです。このハードルの高さを実感し、私もついにあのフレーズを言う日がきました。「妊娠は奇跡です」と。
タイミング法で妊娠
一方、検査と同時に行っていたのが、タイミング法による治療です。
エコーによる診察で、子宮内膜の厚さをみたり、卵胞の育ち具合をみてくれます。排卵がいつあるかを予測するためで、卵が一定の大きさになり排卵しそうになると、その日の性行為が指示されます。
卵が小さい時は、卵胞発育を促す注射(フォリルモンP)を打ちました。これも痛いです。筋肉注射なので、採血などの注射とは痛みの度合いが違います。また、性行為の後に、黄体ホルモンの分泌を高める薬(デュファストン)を服用することもありました。
タイミング法では排卵期の前後に、毎日のように通わなければいけないこともあり、通院回数の多さも思っていた以上にしんどかったことの一つです。
しかし結果、なんと通院して3カ月後、2回目のタイミング法で妊娠することができました。
こんなにスピード妊娠できるなんて思っていなかったので驚きです。妊娠してしまえば、あんなに痛かったはずの卵管造影検査も、痛いのなんてほんの一瞬だったし、あれでこの結果が得られるなんてお得とまで思ってしまいます。
クリニックは確かに痛いことも多いし、覚悟が必要です。体外受精も視野にいれておく必要があるかと思います。でもそれが怖いからといって、踏み出せずにいる人がいれば、もったいないです。私の場合は、もう後がないほど追い詰められての行動だったので、下手に躊躇する必要がなかったのが、良い結果につながったのかなと思います。
まるでドーピングのような注射にも、抵抗がある人がいると思います。私も、排卵誘発剤って副作用があるのかなといろいろ調べたりもしましたが、もう初めから医師の勧め通りすべて受け入れました。
無事に健康な子どもを授かれたのは運もあるかもしれませんが、この薬に頼っていなければ妊娠できていなかっただろうと思います。また、何の検査もせず自然に妊娠していたら、「妊娠はこんなにも奇跡的な事なんだ」と知ることはありませんでした。何度も通ったのでお金もかかりましたが、この経験がこの後の妊娠から出産、子育てにおいても活きていると感じます。
最短といってよいほど早く授かることができ、クリニックの先生には本当に感謝していますし、大変な思いをしている人が大勢いることを知り、いろんな立場の人の気持ちを思いやれる人間になりたいと思うこともできました。
クリニックでの妊活は、人としても成長させてくれる体験だったと思っています。